2006年06月20日

「PS3の未来 〜高価格戦略の成否〜」Part4(2006.6.20)

第四章:「玉に瑕」

 『もちろん、僕はPS3が“絶対に欲しい”と思ってもらえる商品だと確信している』(注16)。久多良木氏はPS3について、こう述べている。では、ユーザーにとってPS3の魅力とは何か。最も大きいものとしては、PS3は1億台以上普及しているPS2の後継機であるという点だろう。PS・PS2対応ソフトとの互換性があるゲーム機と言うだけでもユーザーにとって購入理由になり得るだろし、PS2の後継機であるからこそ、今後も多数のソフトメーカーがPS3向けのゲームソフトを豊富に供給していくものと容易に想像できる。

 PS2と同じく数多くのゲームソフトが供給されれば、ゲーム機としての利用価値があるのだから、ユーザーにとってPS3は「欲しい商品」であると言えるだろう。どんな欠点を抱えていようともWiiやXbox360よりも最も普及台数を伸ばす可能性があるのは、客観的に見てPS3であると考えるのが妥当である。

 だが、現時点でPS3が優位な立場にあるからと言って、勝敗が決したわけではない。PS3の勝利を阻む要因は小さいながらも存在する。明らかにネックとなり得るのがPS2と比べると割高に設定された小売価格であろう。確かにその分だけBDをPS3で再生できるなど魅力的な機能も多いが、一方では『規格が分かれていることもあり、PS3はPS2ほどDVD機としての製品訴求力があるかは疑問』(注17)とも言われている。

 さらに競争相手であるWiiへの高評価も不安材料である。従来のコントローラーとは違った形のものを採用するなど、斬新なアイデアが詰め込まれたWiiに対し『新しい風を吹かせた印象が強い』(注17)と見る向きは少なからず存在する。任天堂の戦略は『普段ゲームをしない、あるいはかつてしていた人を取り込むのが狙い』(注18)であり、それが携帯ゲーム市場において成功していることからも、Wiiの存在はPS3にとって厄介な競争相手だと言っても良いだろう。

 加えてXbox360を抱えるマイクロソフトのビル・ゲイツ会長も『(三月末までに三百二十万台だった出荷台数を)他の次世代機が発売される年末までに一千万台に伸ばしたい』(注19)と述べており、もしこの目標通りに普及が進めば如何にPS3といえども、うかうかしていられないだろう。

 かつてSCEが新規参入者としてPSを市場に投入した時、久多良木氏はこのような発言をしたという。『ソニーの商品は多機能で成功した例はあまりない。ゲームに特化していく』(注20)。その戦略は見事に成功し、今日までゲーム市場の覇権を維持してきた。しかしながら、今回のPS3を見ると明らかに多機能商品であると言えるだろう。

 さて、ソニーグループ全体の業績をも回復させる役割すら背負い込んだPS3は果たしてこの激戦を難なく勝ち抜くことができるのか。これから始まる戦いは大いに見物である。なぜなら、今のゲーム市場は歴史の大きな転換期に差し掛かっているのかも知れないのだから。(おわり)

注16…「週刊東洋経済 2005.7.2」東洋経済新報社 P43
注17…2006年5月10日 日経金融新聞
注18…2006年5月12日 日本経済新聞
注19…2006年5月10日 日本経済新聞夕刊
注20…「キング・オブ・ゲームの未来戦」著 山名一郎 日本実業出版社 1994年 P182

2006年06月19日

「PS3の未来 〜高価格戦略の成否〜」part3(2006.6.19)

第三章:「足かせ」
 
 PS3は全体的に高コスト体質であると言える。久多良木氏も『開発コストは、べらぼうに高いよ』(注12)と話し、それを認めている。だからこそ、SCEはなるべく早期に開発コストを回収するべく、強気の希望小売価格を提示したのだろう。しかし、ユーザーはSCEが示した価格を、様々な付加価値と可能性を秘めたゲーム機だからと言って容易に受け入れてくれるだろうか。

 『“よし、もっと残業して稼いで買うぞ”って思ってもらうのが理想。“絶対に欲しい”と思ってもらわなきゃ』(注13)と久多良木氏は言うが、現状のゲーム市場を見れば、据置型のゲームに対するユーザーの選択眼が一段と厳しくなってきていることが分かる。思惑通りに事が運ぶのかは不透明な状況だ。

 ゲーム誌大手であるエンターブレインの調査によると2005年度のゲーム市場全体の売上規模は4727億円であり、前年度より増加を記録したという。しかし、その内訳を見れば「ニンテンドーDS(NDS)」の躍進が、それに大きく貢献した事が分かる。

 ゲーム市場をさらに据置型と携帯型の二つに分けると、携帯型ゲーム市場はミリオンセラーが複数生まれたこともあって、本体とゲームソフトを合わせた市場規模は前年比約62%増の2381億円へと急拡大した。その一方で、据置型のゲーム市場規模は同18%減の2346億円に留まり、市場規模で携帯型ゲーム市場を下回った。これは据置型ゲーム市場において、新しいゲーム機への移行期に入る前であった事も影響しているだろうが、それだけNDSの存在がユーザーを携帯型ゲーム市場に引き込んだとも言える。いずれにしろ、据置型ゲーム市場の低迷はユーザーによる選別が一層厳しいものになっている証拠だと考えられる。

 しかも、これから発売されるゲーム機はPS3だけではない。注意しなければならないのは任天堂から発売が予定されている「Wii」であろう。なぜなら任天堂は『ゲームになじみがなかった層や、ゲーム離れした人を取り込む』(注14)との戦略をNDSにおいて具現化させ、携帯型ゲーム市場全体を大躍進させるほどの成功を収めたからだ。

 任天堂はNDSの成功から、自らの戦略が最も正しいものであるとの自信を深めていることだろう。そして、その戦略はWiiでも用いられる。つまり、NDSの成功を契機にゲームだけを楽しみたいユーザーが、Wiiに流れる可能性は十分にあるのだ。

 さらに、価格の面からもWiiは有利な立場にある。Wiiの本体価格について任天堂の森仁洋専務が『二万五千円を上回ることはない』(注15)と表明したことで、PS3の半値以下で販売されることがほぼ決まったのだ。PS3が買える値段でWii本体だけでなく、ゲームソフトも数本購入できるのだから、価格競争力はPS3よりもあると言える。この価格差は決して小さくないだろう。

 もし、これらの事情を考えず「PS3はよっぽどのことが無い限りは年間1000万台くらい売れる」と気軽に考えているとしたら、少し楽観的過ぎると言えるのではないだろうか。
 
第四章:「玉に瑕」へ続く


注12…「週刊東洋経済 2005.7.2」東洋経済新報社 P42
注13…「週刊東洋経済 2005.7.2」東洋経済新報社 P43
注14…2004年11月19日 日経産業新聞
注15…2006年5月26日 日本経済新聞
参考資料・・・2006年4月8日 朝日新聞

2006年06月18日

「PS3の未来 〜高価格戦略の成否〜」part2(2006.6.18)

第二章:「懐かしのマルチメディア」

 『初代プレイステーション(PS)もPS2もゲーム機の一つだと思われていたが、PS3は明確に“コンピューター”として市場に出してゆく』(注6)と述べるSCE社長の久多良木氏は、PS3を単なる据置型のゲーム機として認知されることをあまり好ましく思ってはいないようだ。次世代DVDであるBD再生機能を備え、ハードディスクを内蔵し『テレビ番組、音楽、デジカメ画像など家庭内にあるコンテンツを蓄積。必要に応じてそれらを検索し、取り出せるサーバーのような存在』(注7)であるPS3は、確かにゲーム機の範疇を大きく超えた存在なのかもしれない。

 だが、今から10年以上前のゲーム市場において、PS3と似たようなコンセプトで多種多様なゲーム機が続々と開発され、市場に送り出されたことがあった。当時、任天堂やセガだけではなく新規参入者としてSCEやバンダイ、松下電器やNEC-HEなどがそれぞれに自社のゲーム機を投入して大競争を繰り広げたのだが、その時に盛んに言われたのが「マルチメディア」であった。

 ゲーム機でありながら、ゲーム以外の用途にも使えるように映像や音楽、さらには写真などの様々なコンテンツの保存や再生ができ、中には通信機能なども備えた「新しいゲーム機」が今後のゲーム市場を勝ち抜くために必要とされたのだ。その結果、数多くの「マルチメディア機」と呼ばれた機種が登場した。

 特に鳴り物入りで現れた松下電器の「3DO REAL(3DO)」は、当初から単なるゲーム機ではなく『マルチメディアのVHS(据え置き型VTRの標準規格)を目指す』(注8)ものとして、家庭内にあるVHSビデオ機に取って代わる情報家電だと言われていた。しかし高性能を謳った3DOは『発売後二年余りで消滅寸前』(注9)の憂き目をみることになる。

 結局、これらの中でゲーム市場の勝者となったのは、音楽CD程度の再生機能しか無く『今回の32ビットのテレビゲーム機はマルチメディアマシンなどではない。あくまでゲーム機である』(注10)と主張したPSであった。マルチメディアとは程遠い存在のPSが勝者になったという事実は、ゲーム以外の付加価値は必ずしも必要では無いことをSCE自身がはっきり証明した、とも言えるだろう。ゲーム機は、あくまでゲームをするための機器に過ぎないのだ、と。

 それにも関わらず、これらマルチメディア機が目指した方向とPS3のそれは良く似ている。『PS3の目標はリビングルームにある“最強のコンピューター”になることだ』(注7)と久多良木氏は言うが、基本的にユーザーがPS3に期待しているのは「ゲーム機としてのPS3」である。果たしてユーザーに対してどれほどの訴求力があるのか。

 3DOを展開していた当時、松下電器に対してこのような進言があったという。『VHSの後継機といっても、お父さん、お母さん、お兄さん、子供とも実際にはゲームしか買わないよ』(注11)。結果はこの言葉の通り、ユーザーは3DOが誇ったマルチメディアの部分に見向きもしなかった。久多良木氏はPS3の機能を意気揚々と披露するが、誰が3DOの時のようなユーザーの無反応は、PS3では決して有り得ないと保証できるだろうか。

 さらに言えば、その必ずしも必要でない機能を実現するために、SCEが費やした莫大なコストは最終的にユーザーが様々な形で負担することになるのだ。ユーザーは、その巨額の負担をすんなり受け入れるのだろうか。それとも拒み続けるのだろうか。

 次は、それを推し量るためにゲーム市場の現状を改めて見ていきたいと思う。


第三章:「足かせ」へ続く


注6…2006年5月12日 読売新聞
注7…2006年5月11日 日本経済新聞
注8…1993年6月10日 日本経済新聞夕刊
注9…「プレイステーション 大ヒットの真実」 著 山下敦史 JMAM 1998年 P89
注10…「キング・オブ・ゲームの未来戦」著 山名一郎 日本実業出版社 1994年 P147
注11…「セガVS.任天堂 新市場で勝つのはどっちだ!?」 著 国友隆一 こう書房 1994年 P189

2006年06月17日

「PS3の未来 〜高価格戦略の成否〜」part1

第1章「強気のSCE」

 アメリカ・ロサンゼルスで5月10日に行われた「国際ゲームショー(E3)」にて、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は「プレイステーション(PS)3」の発売時期や希望小売価格などの詳細を発表した。SCEによるとPS3には次世代DVDである「ブルーレイディスク(BD)」の再生機能が搭載され、実写のような高精細な画像を表現できる点などが性能面での大きな特長であるという。

 だが、それ以上にSCEが提示した国内希望小売価格にも大きな注目が集まったと言えるだろう。今回の価格発表に対し様々な論評があるが『業界関係者も"予想以上の強気の価格設定"(ソフトメーカー)と驚く』(注1)という意見は少なからずある。

 そうした見方に対しSCE社長の久多良木氏は『値段の高い安いを決めるのは最終的に消費者だ。魅力的な商品ならば買う側も納得する』(注2)と述べると共に『PS3はよっぽどのことがない限りは年間1000万台くらい売れる』(注1)とも予測しており、どうやら発表した販売価格が普及の障害になるとは考えてはいないようだ。

 確かに『高画質でゲームやネットが楽しめるBD再生機は魅力』(注3)との評価や『専門的な立場から言わせてもらえば、あの値段でできるのはすごい』(注4)という見解もある。

 そもそも久多良木氏自身は『PS3はゲーム機でも家電でもパソコンでもない新しい商品だ』(注2)との見ているのだから、PSやPS2などよりも高い販売価格になったとしても構わないのだろう。

 しかしながら、久多良木氏がどんなに「PS3は従来のゲーム機とは異なる新しいアイテムだ」と主張しようとも、多くのユーザーはPS3を基本的にゲーム機として利用するだろう。もちろんSCEとしてもゲーム以外の用途だけにPS3が使われることを望んではいない。それは、SCEが収益を獲得しようとすればユーザーにPS3をゲーム機として利用してもらい、なおかつ数多くのゲームソフトを購入してもらう必要があるからだ。『部品コスト九百ドル説』(注5)が囁かれるPS3の本体だけが、例え数千万台売れたとしても、ゲームソフトが売れない限りSCEの利益には繋がらないのだ。

 SCEの親会社であるソニーは『〇八年三月期にもゲーム事業を黒字化する』(注5)との計画を立てており、PS3が利益を生み出すようになるのは早くて2007年度だと考えている。だが、ソニー本体は現在、業績回復の途上にあり、ゲーム事業は収益の大きな柱になっている。つまり、内部的な事情からもゲーム事業には出来るだけ早い黒字化が求められているのだ。そのためにも、PS3を多くのユーザーに一刻も早く普及させることが必要になってくる。

では『PSは購入年齢層が高く、ぎりぎりでゲームユーザーが購入できる価格』(注5)であるPS3は、果たしてPS2のように急激に普及するのだろうか。今回は、PS3が久多良木氏の思惑通りに「よっぽどのことが無い限りは年間1000万台くらい売れる」のかどうかを、氏の言葉を通じて様々な視点から考えてみることにしたい。


第二章:「懐かしのマルチメディア」へ続く


注1…2006年5月12日 読売新聞
注2…2006年5月11日 日本経済新聞
注3…2006年5月10日 日本経済新聞
注4…2006年5月12日 日経金融新聞
注5…2006月5月10日 日経金融新聞