2006年04月03日

「セガサミー誕生へ 〜思考転換が生んだ統合〜」Part4(2004.7.8)

●「試用期間」

セガとサミーの経営統合の詳細が両社の首脳陣から発表された。それによ
ると、両社は当面持ち株会社の傘下に入り、平成19年3月までに2社を事業
部ごとに再編し、新たな企業形態に移るとされている。だが、なぜ2社を
合併させるのに3年もの長い時間が必要になるのであろうか。『文化が異
なる両社がいきなり合併しても融和するのは難しい』(注10)と里見氏は言
うが、それは建前である。スクウェアとエニックスが今回のような猶予期
間を置かずに合併を果たした際には『両社は企業文化やソフトの開発手法
などは異なる』(注11)とエニックス本多社長は言っていたが、『最近は
(社内会議の)各出席者の出身企業がどっちだったか分からない』(注12)ほ
どにとけ込んでいるという。企業文化が違うのは当然であるが、それを理
由にセガとの合併に3年の期間をかけるのは、何か別な意図があるからで
はないだろうか。

パチスロメーカーであるサミーは、主力のパチスロ事業が今後急成長をす
るとは予想していない。だからこそ、セガをテコにNEWS事業に力を入れ長
期的な成長を目論んでいるのだが、その事業展開が必ずしもサミーの思惑
通りに進むとは限らない。もちろん失敗することもあり得る。

仮に、NEWS事業の目玉である新型業務用ゲーム機「アトミスウェイブ」の
普及に失敗したらどうなるだろう。そのために抱え込んだと言っても過言
ではないセガを傘下に置くメリットがなくなってしまう。そうなれば、新
規事業の失敗による本業回帰の動きがサミー内部で強まる事が予想される。
収益に貢献できていない新規事業を続けるのではなく、本業であるパチス
ロ事業の強化・拡大を行った方が良いのではないか、という意見が出ても
不思議ではない。

そのとき、持ち株会社の便利さが表に出てくる。両社は経営統合を行った
とはいえ、合併したわけではなく、持ち株会社の傘下に並んでいるだけに
すぎない。組織形態そのものは依然として別会社なのだ。もし、サミーが
セガとの統合を白紙に戻したければ、持ち株会社が保有するセガ株を外部
に売却さえしてしまえば、そこでセガとの関係を清算することができる。
だが、合併によって同一の組織になっていれば、旧セガの部門だけをうま
く切り離すのは簡単な作業ではないだろう。

持ち株会社という形態を用い、3年先の合併を目指す理由は、決してセガ
に配慮したからではない。サミー側の都合によって、わざと3年の猶予を
持たせてあるだけに過ぎないのだ。サミーとセガは平成19年3月までには
合併を行うと述べているが、3年もあればNEWS事業の結果は、ある程度現
れてくるだろう。つまり、この3年はサミーによる「セガの試用期間」と
表現することもできる。

一方、セガはこの3年で結果を出す事が求められる。家庭用ゲームソフト
事業でも業務用ゲーム事業でも上手くいかなければ、業績好調な同業他社
に大きな差をつけられてしまうだろう。もう一度、セガを成長路線に復帰
させるためにも、これ以上失敗を続けるわけにはいかない。

注10…2004年5月19日 日本経済新聞
注11…2002年11月28日 日経流通新聞MJ
注12…2004年4月1日 日経産業新聞 括弧内筆者

初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2004年7月8日  

「セガサミー誕生へ 〜思考転換が生んだ統合〜」Part3(2004.6.25)

●「思考転換」
 
ハードメーカーとしても、ゲームソフトメーカーとしても上手く行かなか
ったセガ。家庭用ゲームソフト事業で収益を稼ぐ目論見が大きく外れてし
まった同社に残されているものは業務用ゲーム事業とゲーム施設運営事業
だけである。だが、その内のひとつであるゲーム施設運営事業がセガの成
長を支える中心的な存在になるのは難しいだろう。それは、同事業を積極
的に運営するためには、多額の設備投資資金が必要になるのに加え、成熟
化が進むゲームセンター市場に占めるセガの存在がすでに大きいことが挙
げられる。

セガの市場シェアは『今は一六%くらい』(注9)と小口社長は述べている
が、それだけに『業界全体で六千億円程度の市場だから一%上げるのも大
変』(同)との認識を持っている。将来的には25%まで引き上げる予定だと
いうが、セガが保有する市場シェアなどを考えるとそれ以上の成長はあま
り期待できない。つまり、セガに残された選択肢は業務用ゲーム事業を拡
大する他にないのである。では、業務用ゲーム機に注力せざるを得ない状
況が、なぜサミーとの経営統合に繋がるのであろうか。それを理解するた
めには、サミー側の事情をまず知る必要がある。

セガとの経営統合を発表したパチスロメーカーであるサミーは、パチスロ
市場がこれから急激に成長するとは見ていない。これまで続けてきた成長
路線から、これからも失速することなく収益拡大を目指すのであれば、新
たな事業を模索するしかない。その解決策として積極的に推進しているの
がNEWS事業と呼ぶ新規事業群である。この事業群は家庭用ゲームソフト事
業や業務用ゲーム事業などで構成されているが、サミーの中期経営計画で
はこのNEWS事業だけで平成18年3月期までに1060億円の売上を計上する予
定でいる。平成16年3月期では約246億円の売上に過ぎないのだから、計画
ではかなりの急成長を見込んでいる事になる。

このNEWS事業の目玉として期待されているのが、「アトミスウェイブ」と
いう新型業務用ゲーム機である。このアトミスウェイブは安価で製造でき、
しかもソフト交換が簡単にできるという。同社はこれを業務用ゲーム機の
プラットフォームとして、世界規模で展開しようとしているが、中期経営
計画を見ればできるだけ短期間に普及させたいと考えているはずである。
そのためには、普及を促進させるような優良なコンテンツが必要になる。
その時、業務用ゲーム事業でトップクラスの開発力を持つセガを提携では
なく、よりコントロールしやすい経営統合という形で取り込みたいと、強
く望んだのではないか。

一方、サミーとの合併に一度は反対していたセガであるが、その時点では
依然として家庭用ゲームソフト事業に執着していたと思われる。もちろん、
セガの経営陣が今でも家庭用ゲームソフト事業に未練を持っていたのであ
れば、この経営統合は実現しなかっただろう。だが、今のセガは家庭用ゲ
ームソフト事業ではなく、業務用ゲーム事業に注力せざるを得ない状況に
陥っているのだ。そのような思考転換をセガの経営陣が行ったからこそ、
アトミスウェイブの世界的な普及を目指すサミーとの統合が、一転して大
きなメリットに変わったのであろう。

今回の経営統合は、セガの経営陣が同社を拡大路線に復帰させる役割を果
たすのは業務用ゲーム事業であると認識を改めたことによって生み出され
たのである。

注9…2003年11月6日 日経流通新聞MJ
参考文献…「サミー株式会社 平成16年3月期決算短信」「同 中期経営計画に
関するお知らせ」

初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」[719号]2004年6月25日  

「セガサミー誕生へ 〜思考転換が生んだ統合〜」Part2(2004.6.11)

●「さらばコンシューマ」

今回のサミーとの経営統合に至ったすべての基因は、そもそも家庭用ゲー
ムソフトが期待通りに販売できなかった点にある。2001年1月、セガがこ
れまで力を入れてきた家庭用ゲーム機の製造を中止し、ハードメーカーか
らソフトメーカーへの転身を推し進めたのが、外部出身の香山氏であった。

『ゲームでナンバーワンを目指す』(注3)。ハード事業撤退後、香山氏が
中心となって家庭用ゲームソフトの大幅な販売増を基軸にした再建計画を
作成したが、その結果はすぐに現れた。ソフトメーカーとして最初のスタ
ートを切った2002年3月期のゲームソフトの販売本数は、前期比約30%増
(1270万本)の計画値を大きく超え、最終的には約50%増(1465万本)を達成
することができた。それに釣られるように業績も好転、経常利益は黒字に
転換した。香山氏主導で行われたソフトメーカーへの転身は、一年目にし
て早くも成功したのである。

だが、一年目があまりにも上手く行き過ぎたために、二年目の2003年3月
期は2000万本、翌2004年3月期は3000万本を販売する強気な販売計画に現
実味を与えてしまうことになる。香山氏は2002年6月に『開発力から見て
も計画は十分達成可能だ』(注4)と述べていたが、その5ヶ月後にセガは突
然、ソフトの販売計画を2000万本から1260万本に下方修正を行った。後に
『前期が予想以上に良かったので今期の計画立案に甘さがあったことは否
めない』(注5)と語ったが、最終的にソフト販売本数は1066万本に止まり、
ゲームソフトの販売増を主軸にした再建計画は事実上頓挫してしまうこと
になる。翌年、香山氏は代表権を外され、主導的立場から退いた。

香山氏の後を任されたのが開発部門出身の小口氏である。彼は『セガの潜
在的な開発力で再生できる』(注6)とは口にするものの、社長に就任した
2004年3月期の家庭用ゲームソフトの販売目標を、前期よりさらに少ない
925万本と設定した。下方修正発表後に行われた経費削減によってセガは
家庭用ゲームソフト事業の損益分岐点を『千五百万本から千百万本まで引
き下げる予定』(注7)であったが、この本数では赤字が継続されてしまう。
さらに就任当初は『ゲーム開発には一年以上かかるので、新体制の成果が
出てくるのは来期』(注8)と言っていたにもかかわらず、就任2年目の
2005年3月期の家庭用ゲームソフトの販売目標は1157万本程度なのだ。つ
まり、セガは成果が出るはずの今期でさえ家庭用ゲームソフト事業が収益
に貢献するとは考えていないのである。

ならば、セガは家庭用ゲームソフト事業無くして、どのようにして将来の
収益力を改善するつもりなのであろうか。そこを考えると、なぜパチスロ
メーカーであるサミーとの経営統合を受け入れたのかという理由が見えて
くる。では、次にセガがサミーとの経営統合を受け入れた理由について、
考えることにしたい。


注3…2001年2月8日 日経産業新聞
注4…2002年6月20日 日経金融新聞
注5…2002年11月14日 日経流通新聞MJ
注6…2003年5月20日 日本経済新聞
注7…2002年12月17日 日本経済新聞
注8…2003年5月23日 日経産業新聞
参考文献…「株式会社セガ 2003年3月期決算短信」「同 2004年3月期決算短信」
「同 第44事業計画」

初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」[718号]2004年6月11日

「セガサミー誕生へ 〜思考転換が生んだ統合〜」Part1(2004.6.4)

●「なぜ」

経営再建中のセガと、同社の筆頭株主であるサミーが将来の合併を視野に
入れた経営統合を行うと発表した。両社を傘下に収める持ち株会社を
2004年10月に設立後、平成19年3月末までに両社を各事業別に再編する二
段階方式をとるという。近年の経営不振の影響から、複数の企業と合併ま
たは事業統合に向けて協議を重ね、かつての筆頭株主であったCSKを巻き
込みながら、迷走を続けてきた同社の再建問題はようやく、ひとつの結論
が出たようだ。

今回の統合では『セガにとって経営統合の意義が見えにくい』(注1)など
の評価もあるが、それでもセガにはどんなメリットが期待できるだろうか。
最も言われていることが資金面でのメリットである。『大きな案件では力
を借りる』(注2)とセガの小口社長も期待するほどであるから、セガにと
ってはサミーとの統合で資金的支援が得られるようになったと言えるのか
もしれない。

しかし、セガが資金面で苦労している様子は決算の数字を見る限り、殆ど
ない。同社が2004年3月末までに保有している現預金は約719億円もあり、
しかも本業から生み出される営業キャッシュフローはハード事業撤退以後、
マイナスからプラスに転換している。2004年3月期では前期比で減少した
とはいえ、約215億円のプラスなのだ。反面、有利子負債は3年前の水準の
半分以下である約536億円にまで減少している。セガが本気になれば、保
有している現預金で有利子負債を完済し、無借金経営に移行する事もでき
るのだ。

セガの財務体質は数字上、かなり改善してきている。むしろ、ハード事業
撤退直後の方が苦しい状況にあったと言えよう。このことから、セガは資
金面での協力を外から仰ぐ必要がない事がわかる。

それでは、なぜセガはサミーとの経営統合を決断したのだろうか。これま
で数々の合併・統合の話がすべて失敗する度に「独立路線」を明言してき
たはずなのに、今回サミーとの統合を決断した理由はどこにあるのか。サ
ミーが筆頭株主になったことは、統合を受け入れたひとつの理由になるだ
ろう。だが

サミーとの統合を拒否したければ、同社が保有するセガ株を買い戻してし
まえば良い。サミーはセガ株式の22.4%を約453億円余りでCSKより譲り受
けたが、セガはその自社株の買い戻すだけの資金を持っている。セガの経
営陣が判断すれば、株の買い戻しによってサミーとの関係を絶つこともで
きるのだ。つまり、サミーは筆頭株主だからといって、それほど強力な発
言力を持っていたわけではないのである。

では、なぜセガは今回の統合を受け入れたのか。今回はそこに焦点を当て
てみる事にしたい。

注1…2004年5月20日 日経金融新聞
注2…2004年5月19日 日経金融新聞
参考文献…「株式会社セガ 2004年3月期決算短信」
「サミー株式会社 株式会社セガ 共同持株会社設立による経営統合に関するお
知らせ」

初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」[717号]2004年6月4日