2006年07月10日

「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」Part4(2003.3.12)

当該記事は、2003年3月12日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」の第四章(最終章)です。


第四章:「体力の必要性」
 
 リスクを回避するためにシリーズ化を前提にソフトを制作する手法は、一方で充分な体力を必要とする。第一作が赤字であっても続編で利益を確保するためには、ソフトの開発を赤字の間でも継続しなければならない。その間、ソフトメーカーには増え続ける赤字だけが摘み上がっていくのだ。シリーズ化で利益を獲得するには、しばらくは赤字に耐えられる財務力がなくてはならない。

 セガが昨年、ゲームソフトの販売不振により2003年3月期の業績予想を下方修正した際、GC向けのスポーツソフトからの撤退を発表した。その理由としては、セガの財務力があまり強くないことが挙げられる。『GCでは、スポーツソフトは、ジャンルとして成立していない』(注11)として今後の開発を中止するとセガの香山氏は語っていたが、これは先行投資負担に耐え切れなかったセガの体力不足が引き金になっている。

 確かに『GC向けにはアメリカンフットボール、野球、バスケットボールのゲームソフトを製品化しているが、顧客層の違いなどから販売が低迷』(注12)したかもしれないが、GCにスポーツソフト分野が成立していないからこそ、シリーズ化によって今後は他社ソフトと競合することなく利益を獲得できた可能性があるのだ。

 PS2のスポーツ分野で競合他社との勝負に挑み『完敗した』(注13)はずのセガだが、今は一作ごとに利益を求めなければならない財政事情がある。そのため競合をしなくて済むGC市場ではなく、一度敗北を喫したPS2市場で再度、競合他社と厳しい戦いをしなくてはならないのだ。

 失敗を成功に結びつけるためには、続編の制作が求められるが、体力の無いソフトメーカーには辛い戦略でもある。財務基盤が弱く、再建のために利益を生み出す必要があるセガにとっては、GCのスポーツソフト分野からの撤退は仕方の無い選択である。

 カプコンが『(財務の)安定性が無ければ革新的なソフトも生まれない』(注14)という考えの下、数百億円の資金を保有しているのは、こうした事例があるためだろう。手元に潤沢な資金があるカプコンはGCやXboxへにも有力ソフトを供給してきている。今の所、期待したほどの販売本数は伸びていないようだが、カプコンは近いうちに利益を獲得すべく、次回作を供給するようになるだろう。

 シリーズ化によって収益を挙げる手法は、ソフトメーカーの充分な体力を必要とする。これからリスクを上手にかわしつつ、利益を挙げるためには開発力だけではなく、財務力も一段と強化しなければならないのである。企業の成長のためには資金をどうやって調達するのかが、今後さらに重要になってくると言えるだろう。(おわり)


(注11…「セガ、任天堂GC向けスポーツソフトの開発見直しを検討へ=
香山COO」 2002年11月20日 ロイター通信)
(注12…日経産業新聞 2002年11月21日)
(注13…「セガ:業績予想を下方修正、家庭用ゲームソフト不振で 株価急
落(5)」 2002年11月7日 ブルームバーグ)
(注14…日経金融新聞 2002年11月29日 カッコ内は筆者)


初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年3月12日


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2006年07月09日

「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」Part3(2003.3.5)

当該記事は、2003年3月5日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」の第三章です。


第三章:「ゲーム機戦争の激化」

 シリーズ化によってもたらされる効果は、新作を生み出す支えとしてだけに留まらない。結果としてゲーム機間の競争を促すことにもなる。

 現在、最も普及しているゲーム機はPS2であり、後発のゲームキューブ(GC)とXboxは大きく遅れをとっている。後発組の二機種向けに販売されているソフトで、今の所大きなヒットを記録しているものは数えるぐらいしかない。ソフトメーカー側にすればGC・Xbox向けのソフトを制作するよりも、最もユーザーが多いPS2向けに販売した方が、もっと多くの成果を得られるだろう。そのため新しいハード向けのソフトの開発を取りやめるソフトメーカーがあっても良いはずである。

 だが、実際にはPS2より市場規模が小さいGCやXboxに進出し、ゲームソフトを販売しているソフトメーカーは少なくない。この理由は様々あるだろうが、PS2があまりに多く普及した結果、他社ソフトとの競合がかなり激しくなってしまったことが背景にあるだろう。PS2の市場規模が巨大であるゆえに、PS2向けのゲームソフトがかなり多くなってしまっている。そうなると、他社の販売するソフトとの激しい競合が起き、自社ソフトが思ったよりも売れなくなる可能性が高くなる。それを避けるために、新しいハードへソフトを供給する選択をしたのである。

 一方で、市場が狭いゲーム機にソフトを供給するのであるから、より「売れないリスク」が増大する。それはPS2向けにソフトを投入するときよりも、ハイリスクである。しかし、続編の制作を予め予定していれば、競争が少ない代わりにユーザーも少ないハードで、何とかリスクを和らげることができる。ソフトメーカーも、市場規模の小さいハードにソフトを投じるのであるから、一作目からいきなり利益を挙げようとは考えていないだろう。一作目で、ある程度の手応えを掴み、二作目・三作目の開発につなげ、続編で利益を出してシリーズ全体として利益を確保する計算をしているのではないか。だからこそ、あえて市場規模が小さいGC・Xboxに参入できたのだろう。

 続編に頼ったソフト開発は、それだけゲーム機同士の競争を促すことにもなる。市場が小さいというハンデを持つGCやXboxにソフトを供給するには、予め「売れないリスク」を覚悟した上で参入しなければならない。そのとき、シリーズ化を始めから計画をするのとしないのではソフトの供給意欲は大きく異なる。一作目は赤字であっても、次回作以降で利益を確保するやり方であれば、いきなり赤字を抱える結果になっても、大きな問題ではない。しかし、一作ごとに収支を判断していれば、赤字になる可能性があるハード向けにわざわざソフトを開発しようと考えるだろうか。たとえ続編の制作が検討されても、前作の販売結果が赤字であればあまり期待できない、と判断してしまうことも充分にありえる。結果として、撤退という選択肢を選ばれてしまうだろう。

 新しいハードに参入しているソフトメーカーが、シリーズ全体で利益を取ろうと考えているのであれば、シリーズ化の効果はゲーム機同士の争いを促進させるだろう。続編という緩衝材は、ゲーム機間の競争を促す貴重な役割をも担っている。



初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年3月5日

2006年07月08日

「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」Part2(2003.2.26)

当該記事は、2003年2月26日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」の第二章です。

第二章:「続編が生み出すもの」


 続編の氾濫がゲーム業界をマンネリ化させ、ソフト市場を冷え込ませた原因のひとつであるという批判は多い。確かに、続編が数多く目に付くと、ついそれが原因だと考えたくなるかもしれない。だからと言って、続編をそんなに簡単に否定してしまって良いものだろうか。続編の有用性はまったくないのであろうか。

 業界全体が縮小傾向にある時は、新作ソフトを開発・販売するリスクはより大きくなる。右肩上がりの成長を続けている時であれば、新作が抱えているリスクはある程度他のソフトの売上でカバーできただろう。しかし、今は全体の売上が下落している。このような環境下では新作のリスクをカバーできるだけの“売れるソフト”は徐々に減ってきている。そうなると、ソフトメーカーは“売れないリスク”がある新作を、無理に開発しようとは考えないだろう。

 そんな時期に新作を開発・販売するためには、別な方法でリスクを分散しなければならない。そのひとつとして、最初からシリーズ化までを視野に入れた販売戦略がある。つまり、第一作目の販売成績がたとえ赤字であっても、続編である二作目・三作目以降のソフトで黒字を生み出し、それを以って前作の赤字を埋め、最終的にシリーズ全体で利益を出すやり方だ。

 このような方法であれば、新作が抱えるリスクを続編のソフトにも分散できるし、なによりその次回作は全くの新作ではないのだから、ある程度の販売本数が見込むことができる。あとは、見込み通りの販売本数で利益が出るように開発費を調整すればよい。

 中堅のソフトメーカーであるフロム・ソフトウェアは続編を重視する戦略をとっている。同社の主力ソフト「アーマード・コア」シリーズは、第一作目は残念ながら採算割れという結果に終わったが、続編である二作目・三作目がヒットし、今では同社の主力ソフトにまで成長した。同社の神社長は『続編など次につなげ、全体として成功できるかが重要』(注9)と話し、シリーズ全体で利益を取ることの大切さを述べている。

 新作を言わば布石として、次回作以降の展開に期待するというやり方は、新作に課せられるハードルを低くすることができる。新作は元々、失敗する可能性が高いのだから、その失敗を次に活かすためにシリーズ化が求められているのだ。

 『過去のヒットシリーズの続編が多いのは、ゲーム制作会社の“保守性”の反映という面もありそうだ』(注10)。リスクを巧みに避ける経営方針を外から批判するのはたやすい。だが、企業である以上利益を確保しなければならない。不況時に新作ソフトを生み出すためには、他のソフトに頼らない手法でリスクを軽減するしかないのだ。そのひとつとして存在するのが続編を前提とした販売戦略なのだ。続編を批判するのは良いが、その続編が新作を生み出す支えになっていることも忘れてはならない。続編は決して安易な利益確保の手段ではないのだ。


(注9…日経産業新聞 2002年10月22日)
(注10…日経産業新聞 2002年11月7日)

初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年2月26日

2006年07月07日

「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」Part1

当該記事は、2003年2月19日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「シリーズ化を考える 〜続編歓迎論〜」の第一章です。

第一章:「続編批判」

 プレイステーション2(PS2)の累計生産出荷台数がついに5000万台を超えた。発売からわずか3年弱での5000万台達成は、PS1よりも『約1年2ヶ月早い』(注1)という。その効果をはっきりと見て取れるのがソニーの第3四半期決算である。2002年4月から12月までの同社ゲーム部門の営業利益を見てみると717億円であり、前年同期と比べると7.9%の増加を記録した。ソニーグループは第3四半期決算としては過去最高の純利益(約1200億円)を稼ぎだしたが、ゲーム部門はエレクトロニクス部門(821億円)に次ぐ営業利益を稼ぎだし、PS2が大きく貢献した結果となった。

 PS2がハイペースとも言える速度で普及し、ソニーに大きな利益をもたらしているにも関わらず、国内ゲーム市場の景気は良くない。PS1が次世代ゲーム機戦争に勝利し、国内ゲーム市場が最盛期にあった1997年以降、ゲーム市場の規模は年々、縮小する傾向にある。97年から2001年までのゲームソフト市場の成長率は平均すると年間で『マイナス5%』(注2)であり、特に『2001年は前年度比10.8%減の3685億円』(注3)と大幅なマイナスを記録した。

 このような環境下でソフトメーカー等は活発に、市場縮小の「原因」探しをするようになってしまった。まず槍玉にあがったのは「中古ソフト」だ。『発売直後から中古が出回ると新作が売れなくなる』(注4)という傾向と『中古流通市場は二千億円弱』(同)だとする数字を持ちだして、現在の不況原因を中古市場の存在に求めた。

 さらには若年層を中心に幅広く普及し、多くの日本人が保有している「携帯電話」も不況を生み出した原因のひとつだと指摘された。『携帯電話の普及率、またそれにかかる費用を考えると、携帯電話にゲーム業界が食われたかなと思います』(コナミ北上専務 注5)。

 ただ、今の不況がこうした要因のみによって引き起こされたとは思われていない。ゲーム業界自体がマンネリ化したことが不況の原因になっているとの意見も多い。人気シリーズの続編ばかりが市場に溢れて業界のマンネリ化が進み、それがユーザー離れに繋がったという指摘は、決して少数意見ではない。

 『2000年以降の百万本を超えるような大ヒット作には人気のシリーズ作品がずらりと並ぶ』(注6)。それを評して『ゲーム業界はネタ切れだ』(注7)と山内任天堂前社長は言う。マンネリ化が進んでいるその背景には『有力作の平均的な制作費は五億円前後にもなり、ゲーム会社は制作費が回収できないリスクを嫌う傾向が強まっている』(注8)ことが理由としてあげられている。

 ある程度の販売本数が見込める続編に頼る経営姿勢が問題であり、ゲーム市場不振の原因のひとつだとする批判は多い。だが、不況が続いている環境にあり、シリーズ化への批判がある今だからからこそ、続編の有用性に目を向ける必要があるのではないだろうか。今回は、マンネリ化の象徴とも捉えられつつある“続編”について考えてみることにしたい。


(注1…ソニーコンピュータエンタテインメントプレスリリース 2003年1月16日)
(注2…日経金融新聞 2002年11月29日)
(注3…日経産業新聞 2002年11月7日)
(注4…日経産業新聞 2002年4月30日)
(注5…「週刊ファミ通1月25日号」 P120 エンターブレイン 2002)
(注6…日経産業新聞 2002年3月1日)
(注7…日本経済新聞 2002年6月3日)
(注8…日経産業新聞2002年11月7日)

初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年2月19日