当該記事は、2003年1月22日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「強い危機感 〜巨大ソフトメーカーの誕生〜」の第四章(最終章)です。
第四章:「余裕」
スクウェアとエニックスの合併を最も深刻に受け止めなければならないのは、SCEである。なぜなら、次世代ゲーム機PS3に不透明な部分があるために、今回の合併が生まれたとも言えるし、さらには巨大なソフトメーカーが誕生することで、PS3に一沫の不安が出てくるからでもある。この一沫の不安が現実となれば、SCEはかなりの痛手を被るだろう。
ゲーム機が複数存在する環境下において、有力ソフトメーカー同士がひとつの共同体を構築した場合、ハードメーカー側は少々気を揉まなければならない。それはソフトメーカー達が「キングメーカー」へ変化するからだ。キングメーカーが自社のゲーム機に軸足を置いてくれている間は強い味方であるが、他のゲーム機に移籍した時には手強い協力者に変わる。この存在はハードメーカーとってちょっと厄介である。特に覇権を握っているハードメーカーには。
なぜなら、キングメーカーの存在は相対的にハードメーカーの立場を弱くするからだ。ゲーム機の生殺与奪の権を握られると、ハードメーカーはどうしても配慮せざるを得ない。その結果『日本国内での販売手数料の減収』(注17)などのあまり喜ばしくない現象が起こってしまう。
さらには彼らに移籍された場合の損失を考えると、キングメーカーを自社の陣営に抱えるデメリットも少なからず存在する。そうなると、強すぎるソフトメーカーはハードメーカーにとってあまり歓迎すべきものではないと言えるだろう。
ハードメーカー側としては、ソフトメーカーは弱小ではなく、かといって強大でもないぐらいの規模であるのがちょうど良いのかもしれない。もしそうであるなら、ハードを提供する側としてはキングメーカーの誕生はなるべく避けたいはずである。
しかし、それにも関わらず今回のSCEの対応は合併を歓迎したものばかりだ。『開発力の向上に期待している』(注18)、『競争力のあるコンテンツが今後出やすくなることからプレイステーションのビジネス全体からみれば今回の合併は歓迎』(注19)などの合併を好感する発言が多い。確かに合併により、こうしたメリットが出る可能性はあるし、なによりスクウェア・エニックスの狙いは移籍を目的に為されたものではないと言えるのでSCEのこうした反応は余裕というより、当然なのかもしれない。
スクウェアの和田社長は『2005年ごろの次の世代にはゲームを楽しむ機器が何かは分からない。…どの業界にも主役になるチャンスはある』『プラットフォームも、どこから出てくるのか想像がつきません』(前出)と声高に言うが、これは合併効果を高めるための発言であって、真意ではないのだ。
だが、物事に絶対は存在しない。彼らが移籍する可能性はゼロではないのだ。万が一、スクウェア・エニックスが移籍したら、SCEの被る損失は計り知れない。巨大なキングメーカーの誕生の裏で、SCEの抱えるリスクは確実に拡大しているのだ。
今年2月に行われるスクウェアの臨時株主総会で合併が正式に決定されるが、スクウェア株を18.6%保有するSCEがこの総会でどんな行動を取るのか注目される。もし、キングメーカーの誕生を本当は快く思っていないのであれば、同社株31%を保有する筆頭株主である宮本氏と組めば良い。合計で過半数に近い議決権を反対票としてに投じれば、土壇場で合併を白紙に戻すことも不可能ではないのだから。(おわり)
(注17)…日経流通新聞MJ 2002年11月28日
(注18)…「スクウェア、エニックス:来年4月に合併 “危機意識が共通”
(4)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注19)…日経流通新聞MJ 2002年11月28日
初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年1月22日
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2006年07月14日
2006年07月13日
「強い危機感 〜巨大ソフトメーカーの誕生〜」Part3(2003.1.17)
当該記事は、2003年1月17日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「強い危機感 〜巨大ソフトメーカーの誕生〜」の第三章です。
第三章:「PS3が持つ不透明感」
スクウェアとエニックスの合併は、次世代ゲーム機の生殺与奪の権を握るために行われる。しかし両社は、過去の事例などから考えると、以前からその権利を保有していたと言える。プレイステーション(PS)を最終的に勝利に導いたのは『キングメーカー』(注10)とも呼ばれたスクウェアのPSへの移籍であったし、同様にエニックスもPS陣営へ移籍したことでSCEの勝利を決定的なものにしている。
仮にその分析が正しいものであるなら、次世代ゲーム機の覇者が分からないから危機意識を持って今回の合併を推し進めたとの予測にあまり説得力はない。では、彼らが持つ危機意識の源泉は一体どこにあるのか。
確かに、スクウェアとエニックスが一緒になることでキングメーカーとしての立場は一層強大になると予想できる。だが、以前から彼らはキングメーカーとして振舞ってきたのであるし、さらには次世代ゲーム機競争においてもPS2の後継機(PS3)が勝ち残ると大方の人間が予想している。
それにも関わらず、スクウェア・エニックスを誕生させ、生殺与奪の権の強化に走ったのは、次世代ゲーム機競争でトップになるのが最有力視されているPS3への不透明感があるためだろう。
PS3の登場は2005年か2006年だと言われている。しかし、そのPS3はどんなゲーム機になるのかまったく分かっていない。その不透明さを作りだしているのSCE久多良木社長の発言の数々であろう。
『(PS3の開発は)当然考えているよ。でもゲーム機になるか分からないよ』(注11)、『(PS2の延長線上にある)PS3なんてあり得ないよ』(注12)。さらには2005年までに『ヒトの頭脳にも劣らない“知性を持った石(次世代プロセッサー)”』(注13)を誕生させ、それをPS3に搭載して『パソコンの延長線上にない全く新しいネットワーク機器の開発』(注14)を目指すとも述べている。
次世代ゲーム機の王者となるであろうPS3は、これまでのゲーム機の延長ではない得体の知れない新しい機器になる。久多良木氏の発言を総合するとそう解釈できる。しかし、ソフトを供給する側としては、これらの発言に大きな不安と危機意識を持ったのではないだろうか。
未来のメインプラットフォームになるであろうPS3の実態が掴めず、ゲームソフト開発に支障をきたせば、企業として致命的な傷を負いかねない。カプコン辻本社長が言うように『ゲーム業界の環境はあっという間に変動する』(注15)のだ。どんな小さな変化でも企業の命運を左右しかねない事態に発展するかもしれない。その変化がPS3に起きるとあれば、なおさら細心の注意を払う必要があるはずなのだ。
だからこそ、合併を機にハードの生殺与奪の権を背景にしたスクウェア・エニックスの存在感を増大させ、同社の協力がなければ例えPS3でも成功しないかもしれないとハードメーカーに改めて認識させなければならなかったのだ。そうなれば、SCEから最も優遇される立場に立てる。
『合併することでプレゼンス(存在感)をあげて、ハードメーカー、インフラメーカーから技術的な情報を集めやすい立場になる』(注16)という和田社長の言葉は、まさに本心なのだ。
PS3への不透明感がスクウェアとエニックスの“危機意識”を煽り、合併に至らしめた。そのように予想すると、この度の合併劇はPS3の影響だと言える。PS3のための合併であれば、両社の“提携”でも充分目的を果たせそうではあるが、あえて後戻りのできない合併を選んだことで次世代ゲーム機の生殺与奪の権はこちらにあると、改めてハードメーカーへ強い圧力を掛けることができる。さらに言えば、PS3がもし敗者になったとしてもキングメーカーである以上、スクウェア・エニックスが大きく傾くことは無くなる。
開発部門の統合・再編がなく、派手なリストラも無いゆるやかな合併である理由もここから見えてくる。(つづく)
(注10)…「マイクロソフトの蹉跌」 P391 著ディーン・タカハシ 訳永井
喜久子 2002 ソフトバンク・パブリッシング
(注11)…日本経済新聞 2001年11月26日 (カッコ内は筆者)
(注12)…日経産業新聞 2002年12月16日
(注13)…日本経済新聞 2002年6月6日
(注14)…日本経済新聞 2002年11月7日
(注15)…日経金融新聞 2002年11月29日
(注16)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P12 エンターブレイン
初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年1月17日
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第三章:「PS3が持つ不透明感」
スクウェアとエニックスの合併は、次世代ゲーム機の生殺与奪の権を握るために行われる。しかし両社は、過去の事例などから考えると、以前からその権利を保有していたと言える。プレイステーション(PS)を最終的に勝利に導いたのは『キングメーカー』(注10)とも呼ばれたスクウェアのPSへの移籍であったし、同様にエニックスもPS陣営へ移籍したことでSCEの勝利を決定的なものにしている。
仮にその分析が正しいものであるなら、次世代ゲーム機の覇者が分からないから危機意識を持って今回の合併を推し進めたとの予測にあまり説得力はない。では、彼らが持つ危機意識の源泉は一体どこにあるのか。
確かに、スクウェアとエニックスが一緒になることでキングメーカーとしての立場は一層強大になると予想できる。だが、以前から彼らはキングメーカーとして振舞ってきたのであるし、さらには次世代ゲーム機競争においてもPS2の後継機(PS3)が勝ち残ると大方の人間が予想している。
それにも関わらず、スクウェア・エニックスを誕生させ、生殺与奪の権の強化に走ったのは、次世代ゲーム機競争でトップになるのが最有力視されているPS3への不透明感があるためだろう。
PS3の登場は2005年か2006年だと言われている。しかし、そのPS3はどんなゲーム機になるのかまったく分かっていない。その不透明さを作りだしているのSCE久多良木社長の発言の数々であろう。
『(PS3の開発は)当然考えているよ。でもゲーム機になるか分からないよ』(注11)、『(PS2の延長線上にある)PS3なんてあり得ないよ』(注12)。さらには2005年までに『ヒトの頭脳にも劣らない“知性を持った石(次世代プロセッサー)”』(注13)を誕生させ、それをPS3に搭載して『パソコンの延長線上にない全く新しいネットワーク機器の開発』(注14)を目指すとも述べている。
次世代ゲーム機の王者となるであろうPS3は、これまでのゲーム機の延長ではない得体の知れない新しい機器になる。久多良木氏の発言を総合するとそう解釈できる。しかし、ソフトを供給する側としては、これらの発言に大きな不安と危機意識を持ったのではないだろうか。
未来のメインプラットフォームになるであろうPS3の実態が掴めず、ゲームソフト開発に支障をきたせば、企業として致命的な傷を負いかねない。カプコン辻本社長が言うように『ゲーム業界の環境はあっという間に変動する』(注15)のだ。どんな小さな変化でも企業の命運を左右しかねない事態に発展するかもしれない。その変化がPS3に起きるとあれば、なおさら細心の注意を払う必要があるはずなのだ。
だからこそ、合併を機にハードの生殺与奪の権を背景にしたスクウェア・エニックスの存在感を増大させ、同社の協力がなければ例えPS3でも成功しないかもしれないとハードメーカーに改めて認識させなければならなかったのだ。そうなれば、SCEから最も優遇される立場に立てる。
『合併することでプレゼンス(存在感)をあげて、ハードメーカー、インフラメーカーから技術的な情報を集めやすい立場になる』(注16)という和田社長の言葉は、まさに本心なのだ。
PS3への不透明感がスクウェアとエニックスの“危機意識”を煽り、合併に至らしめた。そのように予想すると、この度の合併劇はPS3の影響だと言える。PS3のための合併であれば、両社の“提携”でも充分目的を果たせそうではあるが、あえて後戻りのできない合併を選んだことで次世代ゲーム機の生殺与奪の権はこちらにあると、改めてハードメーカーへ強い圧力を掛けることができる。さらに言えば、PS3がもし敗者になったとしてもキングメーカーである以上、スクウェア・エニックスが大きく傾くことは無くなる。
開発部門の統合・再編がなく、派手なリストラも無いゆるやかな合併である理由もここから見えてくる。(つづく)
(注10)…「マイクロソフトの蹉跌」 P391 著ディーン・タカハシ 訳永井
喜久子 2002 ソフトバンク・パブリッシング
(注11)…日本経済新聞 2001年11月26日 (カッコ内は筆者)
(注12)…日経産業新聞 2002年12月16日
(注13)…日本経済新聞 2002年6月6日
(注14)…日本経済新聞 2002年11月7日
(注15)…日経金融新聞 2002年11月29日
(注16)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P12 エンターブレイン
初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年1月17日
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2006年07月12日
「強い危機感 〜巨大ソフトメーカーの誕生〜」Part2(2003.1.15)
当該記事は、2003年1月15日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「強い危機感 〜巨大ソフトメーカーの誕生〜」の第二章です。
第二章:「危機意識の源泉」
業績が最良であるはずの両社を合併させてまで将来に備えさせたのは危機意識があったからだ。では、その危機意識はどこからくるのか。
スクウェアとエニックスは生き残るためには合併は必須のものであると考えている。ならば、両社は合併をすればその利点を活かして、迫りくる危機を回避できると判断しているのだとも言える。危機意識の源泉を探るには、合併によるメリットを解き明かすのが近道であろう。
合併後すぐにでも手に入るメリットは、両社の出版部門などの整理統合による増収・増益効果である。だが、この程度で危機を回避できるなら、合併という大きな決断にまで踏み切らなかっただろう。同一の企業体になることで革新的なソフトを生み出せる環境が生まれるのもメリットのひとつである。
しかし、これも前記した通り、『お互いが持っている開発体制がそれを実現するいちばんの近道。それを無理矢理壊してまでいっしょにやらなきゃいけないということは、絶対にないんです』(注6)と言っているぐらいであるから、大きな期待はできない。
社名が長くなったからと言って、革新的なソフトがそう簡単に登場するわけではないのだ。いつ出るのかも見当がつかない、そんな曖昧なものに大きな期待をかけていたとは考えにくい。では、一体合併によって新会社が手に入れたメリットとは何なのだろうか。
UFJつばさ証券のアナリスト岡敬氏は『両社のソフトが提供されないゲーム機は売れなくなるため、ゲーム機メーカーに大きな影響を与える』(注7)ことができると示唆している。つまり、スクウェアとエニックスは合併によってゲーム機の生殺与奪の権を手に入れたのだと岡氏は述べているのである。
これはスクウェア・エニックスにとって大きな特権である。二大RPGである「ファイナルファンタジー」(FF)・「ドラゴンクエスト」(DQ)が供給されるハードはほぼ間違い無く、ゲーム機戦争の勝者となれる。この勝者を選べる特権は合併によるメリットであり、これこそが同社を危機から救うのである。
和田社長は『2005年ごろの次の世代にはゲームを楽しむ機器が何かは分からない。…どの業界にも主役になるチャンスはある』(注8)、『プラットフォームも、どこから出てくるのか想像がつきません』(注9)と言う。つまりスクウェアとエニックスは近い将来に現れるであろう次世代ゲーム機がどんなものなのか、またそれがどこから出されるかまったく予想できないでいるのだ。だからこそ、強烈な危機意識を持っていたのである。
もし合併をせず、次世代ゲーム機の生殺与奪の権を持たないまま、メインに供給するハードを間違ったらどうなるか。ソフトの販売本数が思った以上に伸びずにそれがきっかけで業績が悪化するという事態になる可能性は否定できない。しかも、大作ソフトの開発費用は莫大なものになる。これを失敗したときの影響はかなり大きい。
そうならないために、合併することで次世代ゲーム機の命運を握りたかったのである。それさえを握ってしまえば、どのゲーム機を選んだとしても、選んだ先が次の勝者になるわけであるからハードの選択ミスを侵すことがなくなる。合併によって、次世代ゲーム機への世代交代期において失敗する確率を低く抑えることができるのだ。
しかし、ここで疑問が生じる。それは、ゲーム機の生殺与奪の権は合併する以前から両社は保有していたのではないか、ということだ。FFやDQの移籍でプレイステーションの勝利が確定的になったのは記憶に新しい。
この事実は、もともと両社が生殺与奪の権を持っていた証拠でもあろう。そう考えると、次世代ゲーム機の勝者が予想できないために危機意識を持っているという予測はあまり説得力がない。では、彼らの本当の危機意識はどこからくるのだろうか。(つづく)
(注6)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P11 エンターブレイン
(注7)…「スクウェア、エニックス合併へ ゲーム業界激変に強者連合で対
応(6)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注8)…日経産業新聞 2002年12月16日
(注9)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P12 エンターブレイン
初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年1月15日
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第二章:「危機意識の源泉」
業績が最良であるはずの両社を合併させてまで将来に備えさせたのは危機意識があったからだ。では、その危機意識はどこからくるのか。
スクウェアとエニックスは生き残るためには合併は必須のものであると考えている。ならば、両社は合併をすればその利点を活かして、迫りくる危機を回避できると判断しているのだとも言える。危機意識の源泉を探るには、合併によるメリットを解き明かすのが近道であろう。
合併後すぐにでも手に入るメリットは、両社の出版部門などの整理統合による増収・増益効果である。だが、この程度で危機を回避できるなら、合併という大きな決断にまで踏み切らなかっただろう。同一の企業体になることで革新的なソフトを生み出せる環境が生まれるのもメリットのひとつである。
しかし、これも前記した通り、『お互いが持っている開発体制がそれを実現するいちばんの近道。それを無理矢理壊してまでいっしょにやらなきゃいけないということは、絶対にないんです』(注6)と言っているぐらいであるから、大きな期待はできない。
社名が長くなったからと言って、革新的なソフトがそう簡単に登場するわけではないのだ。いつ出るのかも見当がつかない、そんな曖昧なものに大きな期待をかけていたとは考えにくい。では、一体合併によって新会社が手に入れたメリットとは何なのだろうか。
UFJつばさ証券のアナリスト岡敬氏は『両社のソフトが提供されないゲーム機は売れなくなるため、ゲーム機メーカーに大きな影響を与える』(注7)ことができると示唆している。つまり、スクウェアとエニックスは合併によってゲーム機の生殺与奪の権を手に入れたのだと岡氏は述べているのである。
これはスクウェア・エニックスにとって大きな特権である。二大RPGである「ファイナルファンタジー」(FF)・「ドラゴンクエスト」(DQ)が供給されるハードはほぼ間違い無く、ゲーム機戦争の勝者となれる。この勝者を選べる特権は合併によるメリットであり、これこそが同社を危機から救うのである。
和田社長は『2005年ごろの次の世代にはゲームを楽しむ機器が何かは分からない。…どの業界にも主役になるチャンスはある』(注8)、『プラットフォームも、どこから出てくるのか想像がつきません』(注9)と言う。つまりスクウェアとエニックスは近い将来に現れるであろう次世代ゲーム機がどんなものなのか、またそれがどこから出されるかまったく予想できないでいるのだ。だからこそ、強烈な危機意識を持っていたのである。
もし合併をせず、次世代ゲーム機の生殺与奪の権を持たないまま、メインに供給するハードを間違ったらどうなるか。ソフトの販売本数が思った以上に伸びずにそれがきっかけで業績が悪化するという事態になる可能性は否定できない。しかも、大作ソフトの開発費用は莫大なものになる。これを失敗したときの影響はかなり大きい。
そうならないために、合併することで次世代ゲーム機の命運を握りたかったのである。それさえを握ってしまえば、どのゲーム機を選んだとしても、選んだ先が次の勝者になるわけであるからハードの選択ミスを侵すことがなくなる。合併によって、次世代ゲーム機への世代交代期において失敗する確率を低く抑えることができるのだ。
しかし、ここで疑問が生じる。それは、ゲーム機の生殺与奪の権は合併する以前から両社は保有していたのではないか、ということだ。FFやDQの移籍でプレイステーションの勝利が確定的になったのは記憶に新しい。
この事実は、もともと両社が生殺与奪の権を持っていた証拠でもあろう。そう考えると、次世代ゲーム機の勝者が予想できないために危機意識を持っているという予測はあまり説得力がない。では、彼らの本当の危機意識はどこからくるのだろうか。(つづく)
(注6)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P11 エンターブレイン
(注7)…「スクウェア、エニックス合併へ ゲーム業界激変に強者連合で対
応(6)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注8)…日経産業新聞 2002年12月16日
(注9)…『週刊ファミ通 2002年12月27日号』 P12 エンターブレイン
初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年1月15日
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2006年07月11日
「強い危機感 〜巨大ソフトメーカーの誕生〜」Part1(2003.1.11)
当該記事は、2003年1月11日にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「強い危機感 〜巨大ソフトメーカーの誕生〜」の第一章です。
第一章:「合併」
2002年11月、スクウェアとエニックスが突如として合併を発表した。合併に伴ってスクウェアは解散、エニックスを存続会社とした新会社スクウェア・エニックスが誕生することになった。2大ソフトメーカーだった両社は2003年4月1日を以って、一つの巨大ソフトメーカーとなる。
この合併により、両社が持つ出版事業の統合、ゲームソフトの直販などを行うことで『年間45億円程度の売上増加効果が見込まれる』(注1)という。ただ、出版事業などの統合・再編によって合併効果はすぐにでも現れるだろうが、それが合併の大きな目的ではない。
スクウェアの和田社長は『イノベーションを起こすための体質、体力をどのように作っていくかというのがこの合併の趣旨であります』(注2)と述べている以上、表向きには革新的なゲームを生み出すための合併だと言えよう。しかし、それなのに和田社長は『相互の開発体制について手を加えることは当分ないと思います』(同)とも言う。これには少し疑問が残る。
両社が独自に開発を続けるのであれば、なにも合併する必要はない。形式上一緒になっただけで、何も改革をされていない開発部門がいきなり革新的なゲームソフトを作れるのであるなら何も心配はない。
だが、そんな漠然としたやり方で、新しいものが出来ると期待するほうに無理がある。やはり、革新的なソフトを作るためには、それなりの土台が要るだろう。しかし、「手を加えない」と言っているのだから、その土台作りは積極的に行われないと考えざるを得ない。
そうなると、この度の合併の理由である「イノベーションを起こしていくため」は単に表向きの目的に過ぎないと言えるだろう。では、本来の合併の趣旨とは何か。会見で和田社長は『ゲーム業界の環境が激変するという危機意識が共通していた』(注3)ことが両社に合併を決断させた理由であるとも述べているが、この言葉こそが実質的な目的だったのではないだろうか。
今後、ゲーム業界は激変するかもしれないという危機意識を共有していたからこそ、生き残りのために「スクウェア・エニックス」を誕生させたと考えられるのだ。
『エニックスもスクウェアも、現在は業績が最良の状態』(注4)。和田社長は現在の両社の状態をこのように評している。だが、そんな時期であるにも関わらず『ゲーム市場の環境の変化を見越して勝ち残っていくために、あえて今(合併を)やる』(注5)と両社の首脳に決断させた「強烈な危機意識」は一体どこから来ているのか。
今回は、巨大ソフトメーカー誕生させた危機意識の源泉を辿ってみることにしたい。(つづく)
(注1)…「スクウェア、エニックス合併へ ゲーム業界激変に強者連合で対
応(6)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注2)…「スクウェア・エニックス誕生! ニュースその3」 ファミ通.com
2002年11月26日
(注3)…「スクウェア、エニックス:来年4月に合併 “危機意識が共通”
(4)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注4)…「“新しいイノベーションを起こす最短距離” 和田氏」 GameSpot
Japan 2002年11月26日
(注5)…日経流通新聞MJ 2002年11月28日
初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年1月11日
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第一章:「合併」
2002年11月、スクウェアとエニックスが突如として合併を発表した。合併に伴ってスクウェアは解散、エニックスを存続会社とした新会社スクウェア・エニックスが誕生することになった。2大ソフトメーカーだった両社は2003年4月1日を以って、一つの巨大ソフトメーカーとなる。
この合併により、両社が持つ出版事業の統合、ゲームソフトの直販などを行うことで『年間45億円程度の売上増加効果が見込まれる』(注1)という。ただ、出版事業などの統合・再編によって合併効果はすぐにでも現れるだろうが、それが合併の大きな目的ではない。
スクウェアの和田社長は『イノベーションを起こすための体質、体力をどのように作っていくかというのがこの合併の趣旨であります』(注2)と述べている以上、表向きには革新的なゲームを生み出すための合併だと言えよう。しかし、それなのに和田社長は『相互の開発体制について手を加えることは当分ないと思います』(同)とも言う。これには少し疑問が残る。
両社が独自に開発を続けるのであれば、なにも合併する必要はない。形式上一緒になっただけで、何も改革をされていない開発部門がいきなり革新的なゲームソフトを作れるのであるなら何も心配はない。
だが、そんな漠然としたやり方で、新しいものが出来ると期待するほうに無理がある。やはり、革新的なソフトを作るためには、それなりの土台が要るだろう。しかし、「手を加えない」と言っているのだから、その土台作りは積極的に行われないと考えざるを得ない。
そうなると、この度の合併の理由である「イノベーションを起こしていくため」は単に表向きの目的に過ぎないと言えるだろう。では、本来の合併の趣旨とは何か。会見で和田社長は『ゲーム業界の環境が激変するという危機意識が共通していた』(注3)ことが両社に合併を決断させた理由であるとも述べているが、この言葉こそが実質的な目的だったのではないだろうか。
今後、ゲーム業界は激変するかもしれないという危機意識を共有していたからこそ、生き残りのために「スクウェア・エニックス」を誕生させたと考えられるのだ。
『エニックスもスクウェアも、現在は業績が最良の状態』(注4)。和田社長は現在の両社の状態をこのように評している。だが、そんな時期であるにも関わらず『ゲーム市場の環境の変化を見越して勝ち残っていくために、あえて今(合併を)やる』(注5)と両社の首脳に決断させた「強烈な危機意識」は一体どこから来ているのか。
今回は、巨大ソフトメーカー誕生させた危機意識の源泉を辿ってみることにしたい。(つづく)
(注1)…「スクウェア、エニックス合併へ ゲーム業界激変に強者連合で対
応(6)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注2)…「スクウェア・エニックス誕生! ニュースその3」 ファミ通.com
2002年11月26日
(注3)…「スクウェア、エニックス:来年4月に合併 “危機意識が共通”
(4)」 2002年11月26日 ブルームバーグ
(注4)…「“新しいイノベーションを起こす最短距離” 和田氏」 GameSpot
Japan 2002年11月26日
(注5)…日経流通新聞MJ 2002年11月28日
初出:メールマガジン「ゲームいろいろ情報」2003年1月11日
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