2007年11月08日

過去のコラム編集:2001年9月「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」Part4

当該のゲーム業界記事は、2001年9月25日前後(詳細な月日は現在、不明)にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」の第四章(最終章)です。

折しも2007年11月現在で、SCEのプレイステーション陣営から任天堂のwii&ニンテンドーDS陣営へ乗り換えるゲームソフトが出始めておりますが、こちらのコラムでは当時プレイステーション陣営から任天堂のゲームキューブ陣営に移籍したカプコンのバイオハザードについて考察したものとなっております。



第四章(最終章):「忍び寄る危機」


バイオシリーズがPS2から去った原因は主としてPS2にある。三上氏とカプコンは開発期間の長さを嫌がった。三上氏はできるだけ時間をかけずに、カプコンはできるだけ開発費をかけずにゲームを作りたかったが、PS2という高性能ゲーム機でそれを実現するのはとても難しいことだった。だから、彼らはGCでバイオシリーズを供給すると決めたのだ。


バイオシリーズを受け入れたGCは、これによりソフト開発の容易さをソフトメーカーに広くアピールすることができた。ソフトメーカー側にとっては頭痛の種であった増大する開発費をGCで開発する事で抑制できるのだから、とてもありがたいゲーム機が登場した、と言って良いだろう。それは同時に、多忙を極めるクリエイター達にとっても時間を節約できるGCの登場はありがたいことである


三上氏は、“BIOHAZARD」戦略発表会”で任天堂の方針に大いに賛同している。『映像だけではない、本当におもしろいソフトを供給する、という任天堂さんの考えかたに昔から共感していたこともあり、キューブがそれができるハードということもあって、独占供給を決めました』(ファミ通.com Game 「“バイオ”シリーズはゲームキューブに独占供給」 2001年9月13日)。


三上氏のこの言葉には嘘やお世辞は無いと思われる。多忙な三上氏にとって、自分のゲームを作る時間は限りなく少ない。その少ない時間の中で、良いゲームを作っていくためには、開発が容易なGCは無くてはならないゲーム機なのだから。


しかし、このような状況は、GCを迎え撃つPS2とSCEにとっては好ましい事ではない。確かに、バイオシリーズが移籍した所で、PS2優位の状況は変わらない。変わらないのだが、今回のこの移籍騒動が及ぼす影響はPS2にとって良いものではない


なぜなら、三上氏とカプコンが抱えている悩みと、同じような悩みを持っているクリエイターやソフトメーカーは少なくないからだ。彼らはゲームを時間的にも、資金的にも容易に作りたいと考えているのに、PS2ではそれを実現させるのは難しい。そんな時に、開発者側のニーズに合ったゲーム機が登場したらどうなるだろう。彼らはPS2よりGCに大きな魅力を感じてしまうのではないだろうか。そして、自社のソフトをGCで供給したいと考えるのではないだろうか。


もし、そういう状況が進み、GCがPS2に対抗するだけの力を持った時、各ソフトメーカーは、PS2に対してこれまでとは違う態度をとるかもしれない。そのような事態にまで発展した場合、SCEはソフトメーカーとクリエイターが抱える問題を解消するための何らかの対応策をとれるのだろうか。


もちろん、これは悲観的な見方の最たるものなのかもしれない。だが、こうなり得る可能性だって充分にあるのだ。三上氏とカプコンが起こした行動が、他のソフトメーカーでは起きないという保証は何処にも無いのである。もしかしたら、バイオシリーズのGC移籍は、歴史のターニングポイントになるのかもしれない。(おわり)

2007年11月07日

過去のコラム編集:2001年9月「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」Part3

当該のゲーム業界記事は、2001年9月25日前後(詳細な月日は現在、不明)にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」の第三章です。

折しも2007年11月現在で、SCEのプレイステーション陣営から任天堂のwii&ニンテンドーDS陣営へ乗り換えるゲームソフトが出始めておりますが、こちらのコラムでは当時プレイステーション陣営から任天堂のゲームキューブ陣営に移籍したカプコンのバイオハザードについて考察したものとなっております。



第三章:「カプコン側の理由」


バイオシリーズがPS2からGCに移籍したわけは、三上氏の個人的な理由があったからである。そういうことを踏まえていないと、“バイオ移籍”という事実だけを捉えて、カプコンのマルチプラットフォーム戦略が変更されたと見てしまう恐れがある。


時間がなく、多忙な三上氏がゲームを作るためには、非常に作りやすいGCに供給する以外、道がなかったのである。だから、カプコンが掲げている戦略が変更になったわけではないのである。


しかし、カプコンとしてはバイオシリーズを、PS2で発売することはできなかったのであろうか。確かにクリエイターである三上氏には、ゲームを制作する充分な時間がない。それでも、カプコンは、ゲームを作るのにどんなに時間がかかったとしてもPS2で制作をしなさい、と三上氏に指示することもできたはずだ。それなのに、あえてPS2への供給を諦め、GCでの供給を目指した理由はどこにあるのだろうか。


カプコンがバイオシリーズのPS2での発売を断念して、GCにバイオシリーズを供給する理由は大きく分けて3つあるまず、第一の理由はGCでの開発期間の短さがあろう。そして、この理由が“バイオ移籍”に最も強い影響を与えたと思われる。


三上氏にとって魅力を感じた開発期間の短さは、カプコンにとっても充分魅力的であった。なぜなら、開発期間の短さは、ゲーム開発のために投入しなければならない人員が減ることを意味し、それはそのまま開発費の減少につながるからだ。


高性能ゲーム機の登場により、天井知らずで高騰を続けるゲーム開発費に苦しむソフトメーカーとしては、これは大変ありがたい。開発費の増大は、以前からソフトメーカーも苦々しく感じていたし、ゲームが売れない時代にあっての開発費の増加は出来るだけ避けたいとも考えていたはずなのだ。


それを少しでも救ってくれるGCはソフトメーカーにとって頼もしい存在であろう。しかも、GCの開発機材は安い。任天堂の岩田聡氏は『開発用ハード自体の値段が(NINTENDO64の時と比べて)10分の1に下がったということです』 (ASCII24 「“次世代ゲーム機の覇者は、ゲームキューブです”任天堂株式会社 取締役経営企画室長 岩田聡氏 月刊アスキー2001年9月号 Key personインタビュー」 2001年9月14日カッコ内は著者)と述べ、開発機材がとても安価になっていることを強調する。このように、GCにはPS2が持っていない大きな魅力があったので、カプコンはバイオシリーズをGCに供給しようと考えたのである。


第二の理由は、バイオシリーズの流れをくむPS2用ソフト「鬼武者」や「デビルメイクライ」が順調にPS2で売れていることが挙げられる。特に「鬼武者」はPS2初のミリオンヒットを記録するなどバイオシリーズと遜色が無いほど、ビックタイトルに成長している。こうしたバイオシリーズのいわば“後継者”が PS2で売れていることも、バイオシリーズが移籍した一因であろう。


つまり、バイオシリーズ自体はPS2では出ないかもしれないが、バイオシリーズと言っても良いソフトはPS2にきちんと残っているのだ。こういったことも、本家のバイオシリーズがGCに移籍できた一因ではないだろうか。


第三の理由として考えられるのは、やはり三上氏が制作したゲームで利益をあげるためには、「時間がいくらかかって良い」とは言えない事情がある。ゲームの開発期間が延びれば延びるほど、開発費がかさむのは当たり前の事である。三上氏が作る“バイオ”だからとは言え、開発費が潤沢にあるわけではない


あまりに開発期間が長いと、そのゲームで利益を挙げることは難しくなるのだ。かと言って、開発期間を短くすると質の良いゲームはできない。要するに、三上氏の制作するバイオシリーズで収益を得るためには、開発期間が長く開発費もかかるPS2ではなく、開発が容易なGCで供給する以外に方法が無かったのである


カプコンがバイオシリーズの移籍を決定した背景には、上記の通り主に3つの要因があり、それが総合的に作用したために今回の移籍が決まったと考えられる。(つづく)


→続きはこちら:第四章(最終章)「忍び寄る危機」

2007年11月06日

過去のコラム編集:2001年9月「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」Part2

当該のゲーム業界記事は、2001年9月25日前後(詳細な月日は現在、不明)にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」の第二章です。

折しも2007年11月現在で、SCEのプレイステーション陣営から任天堂のwii&ニンテンドーDS陣営へ乗り換えるゲームソフトが出始めておりますが、こちらのコラムでは当時プレイステーション陣営から任天堂のゲームキューブ陣営に移籍したカプコンのバイオハザードについて考察したものとなっております。



第二章:「時間が足りない」


カプコンにバイオシリーズをGCに移籍させ、PS2への供給を断念させた理由は、バイオの生みの親である三上真司ディレクターにある。三上氏はバイオの供給先にPS2ではなく、GCを選択した訳を次のように述べている。『グラフィック偏重の時代で、グラフィック重視のゲームがあっても良いと思うが、そればかりではいけないと思う。個人的には触って楽しいゲームを作らなければならないと思い、そのためのマシンとして制作された任天堂に共感したので、ゲームキューブを選択した』(GAME Watch 「カプコン“バイオハザード”シリーズ、ゲームキューブで独占供給」 2001年9月13日)。


三上氏の言うグラフィック偏重の時代を招いたのはPS2であろう。PS2は高い描画能力を持っているが故に、ゲームのグラフィックを制作するためには大変な労力を必要とするゲーム機だ。そのため、ゲーム開発期間が長くなってしまう弊害が生まれた。


SCEの岡本伸一氏は『PSでは開発に12カ月から18カ月かかっていました。PS2では18カ月から24カ月かかっています』(Mainichi INTERACTIVE キーマン・インタビュー「SCE常務兼CTO岡本伸一氏」 2001年6月)と述べ、PS2では明らかにゲーム開発期間が長くなっていると答えている。


PS2とは対照的に、バイオを独占供給するGCはゲームを作りやすいゲーム機だ。任天堂の浅田篤副社長は『PS2では、絵をゲームのように動かすまで1〜3カ月かかるが、GCはすぐにできる』(Mainichi INTERACTIVE キーマン・インタビュー 「任天堂副社長浅田篤氏」 2001年)と言い、その短さを強調している。


三上氏がバイオシリーズをGCに独占的に供給しようと考えた訳はここにある。つまり、GC向けにゲームを作ると、ゲームの制作期間がPS2より短期間ですんでしまうのだ。ここに、三上氏が大きな魅力を感じたのである。


三上氏が時間に拘る理由は、彼が置かれている環境にある。『僕は部長職もあるし、10本近いゲームを管理しているから、平日は開発ができない。だから、僕のチームだけ日曜出勤で作っているんですよ』(P7 週刊宝島No.496 2001 3.19 宝島社)。要するに、三上氏は一方では数多くのゲームを管理しながら、一方では休日にゲームを制作するという二足のワラジを履かざるをえない程、多忙な状況にあるのだ。


そのために、彼が作るバイオシリーズは制作期間が短くてすむGCに独占的に供給される事になったのである。これは逆に言うと、三上氏が余りに多忙なため、彼が作るバイオシリーズはGCでしか作れないということでもあるのだ。


三上氏が語った『少なくとも自分が作るバイオはPS2で出すことはない』(Mainichi INTERACTIVE ゲームクエスト 「バイオシリーズ、GC移籍余波」 2001年9月14日)との言葉の背景には、PS2では“時間”の問題でバイオシリーズを作れない三上氏の個人的な理由が存在していたのである。(つづく)


→続きはこちら:第三章「カプコン側の理由」

2007年11月04日

過去のコラム編集:2001年9月「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」Part1

当該のゲーム業界記事は、2001年9月25日前後(詳細な月日は現在、不明)にメールマガジン「ゲームいろいろ情報」にて掲載された連載記事「“バイオ”GCへ移籍 〜開発者側の論理〜」の第一章です。

折しも2007年11月現在で、SCEのプレイステーション陣営から任天堂のwii&ニンテンドーDS陣営へ乗り換えるゲームソフトが出始めておりますが、こちらのコラムでは当時プレイステーション陣営から任天堂のゲームキューブ陣営に移籍したカプコンのバイオハザードについて考察したものとなっております。



第一章:「Good-bye PS2」


ソフトメーカー大手のカプコンは自社の看板ソフトである「バイオハザード」(以下、バイオ)シリーズを今後、ソニー・コンピュータエンタテインメント (SCE)のプレイステーション2(PS2)向けにではなく、任天堂のゲームキューブ(GC)に独占的に供給する事を発表した


2001年9月13日、都内で行われた“「BIOHAZARD」戦略発表会”で明らかにされたこの事実は、周囲に驚きを与えた。それは、主要なバイオシリーズはこれまで、PSでの供給が多かったために、その流れを引き継いでバイオシリーズは今後も当然PS2で出されるものだと、殆どの人が思い込んでいたからだ。


さらに、カプコンが抱えている事情もそれに拍車をかける。カプコンは2002年3月期にゲームソフトを1220万本販売する計画を立てているが、その中で PS2用のソフトは計画値の半分以上の690万本も占めているのだ(ZDNet 『カプコン 2001年は家庭用ゲームに集中する』 2001年5月24日)。これを見れば、計画を達成するためには、PS2に最も力を入れなければならないことが分かる。そのような背景があるため、バイオシリーズがPS2で出るのは、当たり前だと思われていたのだ。


だが、そうした周囲の見方があったにも関わらず、バイオシリーズはGCに移籍することになった。しかも、今後バイオシリーズはPS2には一切供給せずに、 GCにしか供給しないという。マルチプラットフォーム戦略を掲げるカプコンの従来の方針から、今回の発表を予想する事は困難であったと言って良いだろう。


この発表を受けて毎日新聞は『カプコンは、複数ハードへ同一、同時期価格で発売する“マルチプラットホーム戦略”を打ち出していたが、軌道修正した』 (LYCOSニュース 「“バイオハザード”ゲームキューブへ PS2から撤退(毎日新聞)」 2001年9月13日(木)18時38分)と報じ、カプコンの戦略が変わったことを伝えた。


今回のカプコンの決定はまさに異例と言える。PS2に力を入れ、PS2用ソフトを売りたいはずなのに、看板ソフトをまだ登場して間も無いGCに移籍させ、さらにはカプコンが掲げてきた戦略さえも無視をする形でバイオシリーズの独占供給を決めたのだから。この決定は普通に考えれば理解に苦しむ。


どうしてカプコンはこのような決定をしたのであろうか。なぜ、カプコンの看板ソフトであるバイオシリーズをPS2ではなくGCに供給しなければならないのか。やはり、毎日新聞が伝えた通り、カプコンの戦略自体が変わってしまったからなのであろうか。それとも、他になにか別の理由があるせいなのか。


今回のコラムでは、疑問ばかりが湧きあがるバイオシリーズの移籍の真相について考え、さらにそれがどんな意味を持っているのかという所まで探ってみる事にしたい。(つづく)


→続きはこちら:第二章「時間が足りない」